研究紹介

進行中のプロジェクト

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I. 疾病予防
(a) 遺伝的感受性素因からの疾病予防

1)脳動脈瘤多発家系における感受性遺伝子検索プロジェクト

 家族性脳動脈瘤の遺伝疫学を行っています。脳動脈瘤は日本人に多く、その破裂によるくも膜下出血の発症は、年間10万人当たり15人、死亡率は約50%です。一方MRIなどの進歩により早期発見、早期治療が可能となりました。しかし、脳ドッグなどを利用した一般人口への検診プログラムは医療経済的には現実的ではありません。我々は脳動脈瘤の原因解明と、予防体制の確立にむけ、感受性遺伝子の研究をしています。

 これまで家族性脳動脈瘤の患者家系の調査から、染色体上の3つの関連領域を同定し、さらに疾患責任遺伝子の特定を行っています。
この領域の中に1つの感受性遺伝子TNFRSF13Bを世界で初めて同定しました。ケースコントロール研究、次世代シーケンサー解析も導入して、更なる遺伝子の検索に努力しています。


 このほか、もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)、脳動静脈奇形などの脳血管疾患についても感受性遺伝子の調査を行っています。もやもや病の多くは10歳以前に発症し、小児や若年者で脳梗塞を、成人で脳出血を好発します。いったん発症すれば日常生活に支障をきたすため、家族や親族の負担が非常に大きい疾患です。そのため遺伝子同定による予防方法の確立が急がれています。私達と共同研究グループで17番染色体に位置する感受性遺伝子Mysterin(RNF213)を同定しました。現在その機能を疾患特異的iPS細胞の樹立と分化、遺伝子改変マウスの解析を通じて検討しています。また東アジアでもやもや病の頻度が高いことを明らかにするため日中韓の共同研究を行っています。

 京都大学大学院医学研究科脳神経外科学と共同して研究を進めています。

[協力機関の例]

2)その他の遺伝疫学プロジェクト

 四肢の大関節の慢性疼痛はQOLを損なうものとして重要ですが、鎮痛には限界があり、疼痛メカニズムの本態の解明が必要です。私達は四肢の大関節の痛みを定期的に繰り返す家族集積例を見出しています。慢性疼痛の新たなメカニズムの解明を、遺伝子解析を通じて行っております。新規の慢性疼痛の経路から、新規の分子標的が明らかにして、新たな医薬の創出を目指しています。

 そのほか内分泌撹乱物質で注目される家族性甲状腺腫の原因遺伝子の検索などを行っています。

(b) 生活習慣病の予防

 糖尿病は先進国における主要な生活習慣病の一つです。我々の開発したAkita Mouse は、insulin のA7cysteineがtyrosineに変異したマウスであり、proinsulinのfolding 異常により糖尿病を発症します。しかし凝集体などの形成は無く、糖尿病発症メカニズムは不明です。proinsulinのタンパク構造と生体反応を研究しています。
[動物モデルからヒト糖尿病の予防への展開の可能性ー新しい糖尿病モデルAkita-mouseを例にー}
(第8回東北動物実験研究会(平成10年1月23日 東北大学医学部))
[ヒトMODYのマウスモデルAkita mouse]
(日本糖尿病動物研究会 ニュースレター Vol.2 No.1 1998)

[糖尿病モデルマウス-秋田マウスの特性]
(第81回関西実験動物研究会 平成16年3月5日(金) 於:京大会館)
日本エスエルシー 実験動物データ集 AKITA/Slc
Jax Mice Data Sheet C57BL/6-Ins2Akita/J


食中枢の性差研究
このマウスの糖尿病発症の性差、食行動をもとに糖尿病予防のため摂食関連研究しています。Akita mouseより、食行動の性差を見出し、そのメカニズムを追及する研究を行っています。


Akita Mouse
(c) スリランカに多発する慢性腎臓病の調査・予防研究

 慢性腎臓病は先進国では糖尿病の増加に伴い増加しており、透析治療は医療資源を大きく消費しています。発展途上国でも生活習慣病の増加が見られますが、先進国とは異なった様相もあります。
 南アジアの島国スリランカでは糖尿病や自己抗体などの既知の病因が見られない慢性腎臓病が地域的に多発することが知られています。環境衛生学分野ではこの原因不明の慢性腎臓病について調査研究を行っています。

平成22年度科学技術振興調整費 アジア・アフリカ科学技術協力の戦略的推進
国際共同研究の推進「先進技術を基盤とした地域共通課題解決型共同研究」
「スリランカで多発する慢性腎疾患の原因究明」
として実施されています。


スリランカにおけるフィールド調査(中北部州Medawachchiya)
II. 環境保健プロジェクト

(1)福島第一原子力発電所事故による影響調査:

原発事故による福島県住民の放射線被ばくの調査や放射性物質の環境動態調査を行っています。
福島第一原子力発電所に近接する地域において、個人線量計を用いた外部被ばく調査、呼吸、食事を介した内部被ばく調査を行い、発がんリスク評価を行っています。また森林里山調査、動態シミュレーションなど学際的に取り組み、警戒区域再編後の住民の帰還を支援しています。
放射線による影響だけでなく、避難、事故後の生活の変化による健康状態への影響についても調査を行っています。

(2)環境汚染・毒性学プロジェクト:

 撥水剤、消火剤、その他産業で使用されてきた化学物質perfluorooctane sulfonate (PFOS)は、環境中、体内でほとんど分解されず、生物に蓄積され、世界各地で検出が報告されています。2009年のストックホルム条約締約国会議ではポリ塩素化ビフェニルや塩素化ダイオキシンに続く、新たな残留性有機汚染物質(POPs)に指定され、環境研究のホットな話題の一つです。この物質に関する知見はまだ極めて限られており、ヒトへの健康影響を評価することは急務の課題です。

 われわれはこの化学物質の環境汚染状況とヒト健康影響について研究しています。水質、大気中などの汚染の化学分析、摂取量の推定、薬物動態解析、薬物トランスポーター実験、毒性実験とさまざまな側面からの研究を行っています。

[PFOS概説]

(3)長期環境プロジェクト:

 ダイオキシンなどの残留性有機汚染物質(POPs)は、難分解性、生物蓄積性のため、製造、排出により環境汚染が一度起こると、数十年にわたり環境や生物中に残留することになります。製造の中止などの対策が講じられたのち、汚染が減少するかどうかは、持続的な環境モニタリングが必要となります。

 しかし過去から現在まで、あるいは未来にわたっての流れを理解するためには、整った条件で採取された環境モニタリングサンプルを用意することが必要になります。ヒト体内の化学物質を測定するために血液を全国的にかつ継続的に収集することは困難であり、これまでにそういった試みはありませんでした。

 その中でもわれわれは1970年代から全国的なヒト血液や食品試料を継続的に収集してきて、生体試料バンクを作り上げてきました。これによりこの30年間での化学物質の汚染がどのように変わってきたのかを全国的に調査可能な研究基盤を確立し、このインフラストラクチャーを他機関からも利用可能としました。

 これまでにポリ塩素化ビフェニル、ポリ臭素化ジフェニルエーテル、有機フッ素化合物、メチル水銀などの長期トレンドを明らかにしました。また体内化学物質量を左右する要因の研究も行っています。

 今後も新たな汚染物質の動向や化学物質対策の効果の評価を行っていきます。


血液中有機フッ素化合物の経年変化(1983年から1999年)
(4)アジア広域化学物質管理Project:

 東アジア地域は環境共同体であり、越境大気汚染が生じうる。化学物質のインベントリやシナリオ情報によるデータをもとに、環境汚染物質の拡散予測モデルシミュレーションの開発を行っています。また有害重金属やPOPsのモニタリングを同時に行い、シミュレーションモデルの検証を行っています。



ベトナム・ハノイ市での授乳婦調査


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