日本糖尿病動物研究会 ニュースレター Vol.2 No.1 1998

糖尿病モデル動物の紹介(1)
ヒトMODYのマウスモデルAkita mouse

秋田大学医学部衛生学
小泉昭夫

 ヒトにおける糖尿病の遺伝的要因の解析には、マウス、ラットでは染色体レベルでsyntenyがヒトとの間で成立しているため有用である。以下、我々が開発した糖尿病モデル動物について紹介したい。
 1)糖尿病の特徴:我々の開発したモデルマウスは、ヘテロは生後10週までには糖尿病を発症する。性差が存在し、雄は雌よりも糖尿病の程度が重く1年生存率も50%程度と悪いが、雌はほぼ100%と正常同胞と変わらない。本マウスは、糖尿病にいたるどの時点においても肥満は証明されない。また、Insulin投与による末梢のInsulin抵抗性の検討では、Insulin抵抗性は無いと結論された。また、血中のインスリンは正常同胞に比較し著しい低値をしめす。
 2)遺伝様式および遺伝子座:遺伝様式は常染色体優性遺伝様式で子孫に伝わって行く。連鎖解析の結果、D7Mit258への強い連鎖が証明され、責任遺伝子は、7番染色体72±3cMに存在する事が明らかになった。
 3)膵ラ氏島の病理:糖尿病初期の膵β細胞で既に、明らかなβ細胞密度の低下が証明される。さらに、β細胞は、抗Insulin抗体に不均一にそまる。経時的観察では、糖尿病発症前から完成期のどの時点においても膵ラ氏島へのリンパ球の浸潤など、Insulitisを示す所見は認められない。やはり雌雄差が明瞭に認められ、雄では、よりInsulinに染まる領域の減少が著明である。さらに、糖尿病発症前後を含め、死亡に至るまでβ細胞の増殖によるHyperplasiaは認められない。電顕で観察すると、β細胞には特異な変性像として、細胞質に網目状の構造が認められ、核は濃染し、細胞質とのあいだに明確な間隙が存在している。細胞質にあるミトコンドリアは糖尿病初期より膨化し週齢を経るにつれて破裂像が認められる。また、明らかに細胞1つ当たりのInsulin分泌顆粒も少ない。これらの変化にたいしα細胞の微細構造は、糖尿病完成以後においても正常に保たれる。
 4)合併症:糖尿病を発症する10週前後から、尿崩症に似た著明な多飲多尿を生じる。Vasopressinへの応答はよく、Insulin投与により多飲多尿が改善されることから、高血糖による浸透圧利尿と考えられる。本マウスでは、40週までにほぼ糖尿病の全例が水腎症を発症する。また同時にヒトの糖尿病に類似した糸球体病変を30週齢以降発症する。
 5)生化学的検討:糖尿病マウス、対照同胞において、膵臓当たりのInsulin, Proinsulinの含有量を検討したところ、両者の絶対値の減少が糖尿病マウスに認められたが、Insulin:proinsulin比は、どちらも2-3%で大きな違いは存在しない。また、分離したラ氏島から分泌されるInsulin, proinsulinも絶対量は少ないが、Proinsulinemiaは証明されない。
 6)ホモマウスでの知見:ホモ個体では、生後直後から血糖値はいくぶん高めであり、生後2週までには明らかな高血糖を示す。ホモマウスでは成長不全をきたし生後3ヵ月までに死亡する。病理所見では、生後直後にすでにβ細胞密度の減少があり、それを補うかのようにα細胞の増殖が認められた。さらに、生後の離乳期は、正常同胞、へテロ同胞では、β細胞密度の増加が起こるのに対し、ホモ個体ではα細胞は増加するのに対しβ細胞の密度は増加しない。したがって、周産期初期における膵臓あたりのInsulin/glucagon含有量は、生後直後より、ホモ個体では減少する。
 7)糖尿病研究にとっての有用性:Mody遺伝子座のヒトにおけるSyntenyは11番染色体15あるいは13であり、この領域に相同の糖尿病の遺伝子座が存在するものと考えられる。しかし、ヒトMODYに関連する遺伝子は現在までにこの領域には存在しない。そこで我々はこの未知の遺伝子が、遺伝形式の類似性、若年発症であること、肥満をともなわないこと、Insulin抵抗性が認められないことなど臨床的にヒトMODYと類似していることからModyと命名された。
参考文献
  1. Yoshioka M, Ikeda T, Kayo T, and Koizumi A, Diabetes 46:887, 1997
  2. Kayo T and Koizumi A, J Clin Invest 1998年5月号掲載予定
  3. Koizumi A, Hirasawa F, Tsukada M, Kayo T et al, Diabetologia in press
  4. 吉岡政人、堀内和之、長谷山俊之、小泉昭夫, 日衛誌 53巻:129, 1998
  5. 堀内和之、吉岡政人、長谷山俊之、小泉昭夫, 日衛誌 53巻:130, 1998
  6. 長谷山俊之、嘉陽毅、塚田三香子、小泉昭夫, 日衛誌 53巻:131, 1998