ごあいさつ


京都大学医学研究科 環境衛生学分野 教授

小泉 昭夫

 我々は、Health and environmental sciences であらわされるように、健康と環境の問題を取り扱っています。19世紀以来、衛生学・公衆衛生学は著しく進歩しましたが、個体要因と環境要因の解明が、確実な予防対策に結実し、その結果、健康増進と種々の公衆衛生指標の改善に貢献したことは論を待たないことでしょう。我々の分野は、健康問題を考える場合には、環境要因と個体要因(現代的には遺伝要因)は並列ではなく、常に両面からとらえることが必要性と考えています。例えば、太古以来、生物は飢餓に晒されることはあっても飽食に晒されたことはありませんでした。その結果、飽食に晒されることにより(環境要因)、糖尿病など過去には頻度が低い疾患が蔓延することになり、遺伝的に感受性の高い個体(遺伝要因)が発症したと考えることができます。また、同様に新規合成化学物質によるアレルギーは、遺伝要因が感受性を決め、環境中に拡散することで発症に至ったと考えることができます。この様に、我々は、環境要因の変化が、遺伝要因に規定される感受性の違いを生み健康問題を生じるというダイナミックな関係を想定し、環境衛生学を研究しています。

 具体的には、より環境に重点を置いたテーマと、遺伝要因に重点を置いたテーマの2つの研究をしています。前者では、福島県の放射性物質汚染の課題、難分解性汚染化学物質の環境問題、越境環境汚染問題をテーマとして研究を行っています。また、近年の環境変化をサンプルとして追跡できる京都大学生体試料バンクを確立しております。この生体試料バンクは、1970年代以降から現在までに採取された試料であり、我が国を初めアジア諸国の血液(29,890検体)、食事(4,250日分の検体)、母乳(4,850検体)からなる世界的にも極めて貴重な研究試料インフラで、我々が研究で用いるだけではなく、多くの研究者にも試料を提供し、我が国の環境研究にも貢献しています。また、遺伝要因に重点を置いた課題では、小児の脳血管疾患として東アジアに頻度が高いもやもや病や、家族性脳動脈瘤の2疾患を中心的に研究しています。これら2疾患とも、遺伝要因のほか、環境要因の関与が強い疾患であり、感受性を決定する遺伝子とともに環境要因を明らかにすることで、予防手段の確立をめざしています。

 我々の分野が求める人材は、環境による健康問題に興味を持つ多様な背景を持つ人材です。医学研究科にありますが、医療系の素養は問いません。現在までに、文系学部、理学部や理工学部など多様な背景を持つ学生が進学しております。公衆衛生大学院では公衆衛生の基礎を身に着け、我々の分野の研究に参加することで座学では学ぶことの困難な環境衛生のセンスを身につけることができます。修了生は、2000年の開校以来(2014年3月現在)専門職学位課程は25名、3年制博士後期課程は8名、4年制医学博士課程3名が巣立っており、知識・技能と問題解決能力で大学や研究機関、企業等の多くの分野で国際的に活躍しております。是非我々の門をたたいてみてください。

home