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Environmental Health and Preventive Medicine誌
doi: 10.1007/s12199-011-0251-9

原著論文

福島県成人住民の放射性セシウムへの経口、吸入被ばくの予備的評価

小泉昭夫1、原田浩二1、新添多聞1、足立歩1、藤井由希子1、人見敏明1、小林果1、和田安彦2、渡辺孝男3、石川裕彦4

1京都大学大学院医学研究科環境衛生学分野
2高知県立大学健康栄養学部健康生態学
3東北文教大学
4京都大学防災研究所気象水象災害研究部門暴風雨・気象環境分野

連絡先:
小泉昭夫
〒606-8501 京都市左京区吉田近衛町
京都大学大学院医学研究科環境衛生学分野
電話 075 753 4456

石川裕彦
〒611-0011 京都府宇治市五ケ庄
京都大学防災研究所気象水象災害研究部門暴風雨・気象環境分野
電話 0774 38 4159


抄録

【目的】 本研究では福島県成人住民の、環境を通じたセシウム134、セシウム137(放射性セシウム)への経口、吸入被ばくを評価することを目的とした。調査期間は2011年7月2日より8日であった。

【方法】 成人1人の1日量の食事を代表するような55セットの食事(水道水を含む)を福島県内の4地域の商店で購入した。また地域で生産された牛乳(21試料)、野菜類(43試料)を購入した。同時に12地点において、大容量空気捕集装置を用いた大気中エアロゾル採取を行った。対照となる19セットの食事を京都府宇治市で2011年7月に収集した。セシウム134、セシウム137濃度はゲルマニウム半導体検出器を用いて測定した。

【結果】 福島県では55セットの食事の内、36セットで放射能が検出された。京都府では19セットの内、1セットで検出された。預託実効線量の中央値は年間3.0マイクロシーベルトであり、最小値は検出限界以下(年間1.2マイクロシーベルト以下)、最大値は年間83.1マイクロシーベルトであった。牛乳、野菜類のうち、暫定基準値(牛乳200ベクレル/キログラム、野菜類500ベクレル/キログラム)を超えたものは無かった。大気粉じん(ダスト)の吸入による実効線量は9地点で年間3マイクロシーベルト以下と推定されたが、損壊した原子力発電所から半径20キロメートル地点の近傍では比較的高い線量を示した(飯舘村:年間14.7マイクロシーベルト、浪江町:年間76.9マイクロシーベルト、葛尾村:年間27.7マイクロシーベルト)。

【結論】 福島県内での経口、吸入によるセシウム134、セシウム137への被ばくが認められたが、総じて、基準値以下であった。

キーワード: セシウム134、セシウム137、曝露評価、福島第一原子力発電所事故、経口摂取、吸入


研究の背景

 2011年3月11日に東北地方で発生した地震と津波によって福島第一原子力発電所に事故が起こった。2011年3月15日には同原子力発電所で爆発が生じ、放射性ヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プルトニウムといった多量の放射性核種が日本北部および太平洋に放出された。これはチェルノブイリ原子力発電所事故につぐ、史上2番目に大きな原子力発電所事故であり[引用文献1,2]、2011年3月11日から4月15日の期間に環境中に放出されたセシウム137総量は1.3×10の16乗ベクレルであり、チェルノブイリ事故における放出量の約10%と推測されている[3]

 事故の直後に原子力発電所の20キロメートル圏内の住民に避難指示が出されたが、その圏外には今も福島県の人々が生活している。現在、原子力発電所からの放射性物質の放出は沈静化しているが、環境中に沈着した放射性物質による被ばくを継続的に評価することは依然重要である。福島県の居住地域におけるセシウム137の汚染量はすでに報告されているが[4]、汚染した食品の摂取および大気中に再浮遊する粉じん[5]の吸入による内部被ばく量の評価が必要である。

 特に汚染した食品・飲料の摂取による内部被ばくは、近隣の住民だけでなく離れた地域の人々にとっても深刻な懸念となっている。食品による内部被ばくについては、個々の食品中の放射性物質量(べクレル/キログラム)以上に、個人が消費する1日量の食事中に含まれる放射性物質量(べクレル/日/人)に基づいて評価することが重要である。

 今回私たちのグループは、事故後の内部被ばく量を評価するために、2011年7月時点で現地にて実態調査を行い、食品摂取および大気吸入を通じたセシウム134およびセシウム137の成人住民への被ばくに焦点をあてて検討を行った。


試料と方法

フィールド調査

 私たちは1日量の食事セット、野菜類を地域の商店で購入し、また、水道水、大気粉じん(ダスト)試料を検査した。調査地点は原子力発電所の周辺の市町村である(図1)。調査期間は2011年7月2日から7月8日である。図1中の「M」「V」と記載された地域ではそれぞれ1日分の食事セット、野菜類を購入した。この地域では水道水も採取した。図中「A」と記載された地域では大容量大気捕集装置(柴田科学HV-1000F)で大気粉じんを採取した。また同時に土壌試料(表面から深さ5cm)を採取した。このほかに、福島市の一箇所で8段式カスケードインパクター(東京ダイレックAN-200)を備えた低容量大気捕集装置(柴田科学SL-30)を用いて、大気粉じんの連続捕集を行った。


図. 1. フィールド調査地点の地図上の位置

"A"は大気粉じん捕集を行った場所を示す。
"M"は食事セット、水道水を収集した場所を示す。
"V"は野菜類を収集した場所を示す。
"X"は東京電力福島第一原子力発電所の位置を示す。
各英字はおおよその地理的な位置を示している。


食品収集と放射能測定のための処理

 5名の男性研究者(年齢32歳から68歳)が各市町村の地元住民がよく利用する食料品店を訪れ、個々人の選択により1日量の食事セットをいくつかずつ購入した[6]。食事の1セットは、調理済みの朝食、昼食、夕食、間食および嗜好品の成人一人当たりの一日消費分からなる。同一地域内の水道水12Lを住民から得た。さらに各地域で生産された野菜類、牛乳を購入した。全ての試料は採取日のうちに4℃の条件で京都大学に輸送された。

 間食も含む1日量の食事セットはそれぞれ収集された水道水(およそ1L)を用いて均質化された。調製された最終容量を記録し、そのうちおよそ1Lを凍結乾燥処理した。野菜類、牛乳についても凍結乾燥処理を行った。対照となる1日量の食事セットを既報の手順[6]に従い19名の成人女性から集められた。対照となる食事セットは2011年7月に京都府宇治市(福島第一原子力発電所から540キロメートル離れている)で集められた。

大気粉じん採取と放射能測定

 大容量大気捕集装置を用いて、大気粉じんを石英線維フィルター上に捕集した。全ての地点で地上1.5メートルにおいて、50 m3以上の大気を捕集した。アンダーセン式大気捕集装置を用いて、空気力学的直径の異なる大気粉じんをそれぞれ捕集し、福島県における粉じんの吸入可能な割合を推定した。この装置は福島市内に設置された。粉じん試料の粉じん重量を秤量し、放射能を測定した。

セシウム137、セシウム134測定

 1日量の食事セット、牛乳、野菜類試料は乾燥重量で100-200 gを、土壌試料は湿重量で100-200 gを取り分け、円筒形のポリエチレン容器に封入した。大気エアロゾル採取を行ったフィルターは折りたたみ、円筒形のポリエチレン容器に封入した。放射性核種測定には低バックグラウンド高純度ゲルマニウム検出器を用いた。検出器は10cmの鉛の内部に遮蔽されている。また銅板、アクリル板で内張している。マルチチャネルアナライザー (Princeton Gamma Technologies MCA8000, 4,096チャネル, range 0-3,000 keV)によりγ線エネルギースペクトルを得た。固有のγ線エネルギー(セシウム134: 604.7および795.9 keV; セシウム137: 661.7 keV)により放射性核種を同定、定量した。濃度既知の線限を用いて検出効率を求めた。食品、大気粉じん試料は20000秒以上計測し、土壌試料は2000秒以上計測し、スペクトルを得た。最小検出限界は食事セット試料で0.05 ベクレル/キログラム、野菜試料で0.2 ベクレル/キログラム、牛乳試料で0.2 ベクレル/キログラム、粉じん試料で0.2 ミリベクレル/m3、土壌試料で1 ベクレル/キログラムであった。全ての試料は放射平衡に達していると考えた。放射能強度は半減期(セシウム134 2.06年, セシウム137: 30.1年)に基づいて、2011年3月15日時点の値に換算している。

経口摂取、吸入による被ばく推計のための実効線量係数

 放射能強度は実効線量係数を用いて預託実効線量に換算した。経口摂取においては、セシウム134 は0.019 マイクロシーベルト/ベクレル、セシウム137 は0.013 マイクロシーベルト/ベクレルである[7]。吸入被ばくにおいては、成人の標準1日呼吸量を20 m3として、セシウム134は0.02 マイクロシーベルト/ベクレル、セシウム137 は0.039 マイクロシーベルト/ベクレルの実効線量係数を使用した[7]。この二つの被ばく経路について特別な排出は起こらないと仮定した。


結果と考察

 全部で74組の1日量の食事セットが集められ、分析された。メニューとその内容を表S1に、1日に摂取される放射能量(ベクレル/日)を表1に示す。1日量の食事試料中にセシウム134 またはセシウム137が検出された件数は、福島県の試料では55件中36件であったのに比べ、京都府の試料では19件中1件のみであった。預託実効線量は、京都府の最高線量が年間5.3マイクロシーベルトであるのに比べ、福島県では中央値年間3.0マイクロシーベルト、範囲は検出限界以下(年間1.2マイクロシーベルト以下)から最高年間83.1マイクロシーベルトであった。

表1
福島県内における放射性セシウムの経口摂取量

調査地点 試料数 食事量 含水率 摂取量(ベクレル/日) 預託実効線量
(グラム/日) (%) セシウム134 セシウム137 (マイクロシーベルト/年)
福島県合計 55 検出数 (%) - - 36(65.5) 35(63.6)
中央値 (最小値-最大値) 2053(1,100-3,145) 80.8(73.3-97.6) 0.2(ND-7.2) 0.3(ND-7.0) 3.0(ND-83.1)
平均±標準偏差 2,178±400 81.9±4.5 0.5±1.1 0.6±1.0 6.4±12.5
いわき市 10 検出数 (%) - - 9(90.0) 9(90.0)
中央値 (最小値-最大値) 2,241(1,879-2,690) 82.1(76.8-86.1) 0.4(ND-2.5) 0.7(ND-1.6) 6.5 (ND-24.7)
平均±標準偏差 2,238±272 81.5±3.3 0.7±0.8 0.7±0.5 8.6±7.8
相馬市 10 検出数 (%) - - 7(70.0) 8(80.0)
中央値 (最小値-最大値) 2,451(2,044-2,795) 80.5(73.3-87.1) 0.6(ND-7.2) 0.9(ND-7.0) 8.2(ND-83.1)
平均±標準偏差 2,395±293 80.1±4.2 1.4±2.2 1.6±2.2 17.4±25.3
二本松市 10 検出数 (%) - - 5(50.0) 4(40.0)
中央値 (最小値-最大値) 2,611(1,964-3,145) 79.4(75.1-82.6) 0.1(ND-0.9) ND(ND-0.9) 1.7(ND-10.4)
平均±標準偏差 2,529±423 78.9±2.3 0.3±0.4 0.2±0.3 2.9±3.6
福島市 25 検出数 (%) - - 15(60.0) 14(28.0)
中央値 (最小値-最大値) 1,954(1,100-3,051) 83.7(77.9-97.6) 0.1(ND-0.8) 0.2(ND-1.3) 1.3(ND-11.3)
平均±標準偏差 1,927±308 84.1±4.8 0.2±0.2 0.2±0.3 2.6±3.1
宇治市 19 検出数 (%) - - 1(5.3) 1 (5.3) -
最大値 - - 0.4 0.5 5.3
平均±標準偏差 2,955±652 87.2±2.5 - - -

ND:検出限界以下(0.2ベクレル/キログラム)
預託実効線量はセシウム134とセシウム137の合計である。
経口摂取による実効線量係数はセシウム134とセシウム137についてそれぞれ0.019マイクロシーベルト/ベクレル、0.013マイクロシーベルト/ベクレルである。


 牛乳中と野菜におけるセシウム134 とセシウム137放射能強度を表2に示す。福島県産牛乳中の総線量は中央値4.1ベクレル/キログラム、範囲は検出限界以下(0.2ベクレル/キログラム以下)から10.1ベクレル/キログラムであり、日本の厚生労働省が定めた暫定基準値よりも一桁低い値であった[8]。京都府産の牛乳中には、1件に微量の放射能が検出されたのみであった。福島県産の野菜の試料に関しては、シイタケ(Lentinula edode)が暫定基準値の60%に達する比較的高い放射能を含んでいたが、それ以外には100ベクレル/キログラムを超える試料はなかった(表2)。川俣町、あるいは、南相馬市産のシイタケ中の放射能量は、いわき市販のものよりも高いことから、福島第一原子力発電所から北東の風により放射性プルームが拡散したことが示唆された。京都府産の野菜からは放射能は検出されなかった。これらの結果から、福島県内の各都市で摂取される放射性セシウムの量は、シイタケを除いて暫定基準値を有意に下回ることが示唆された。

表2
福島県で流通する牛乳、野菜類における放射性セシウム濃度

調査地点 試料数 重量 放射能 (ベクレル/キログラム) 暫定基準値 a)
(グラム) 134Cs 137Cs 合計 (ベクレル/キログラム)
牛乳 200
福島県合計 21 検出数 (%) - 20(95.2) 19(90.5) -
中央値 (最小値-最大値) - 1.8(ND-4.9) 1.9(ND-5.5) 4.1(ND-10.1)
平均±標準偏差 985±119 2.1±1.7 2.4±1.9 4.5±3.6
いわき市 3 検出数 (%) - 3(100.0) 3(100)
中央値 (最小値-最大値) - 0.9(0.6-1.2) 1.2 (1.1-1.3) 2.0(1.9-2.3)
平均±標準偏差 752±202 0.9±0.3 1.2±1.1 2.1±0.2
相馬市 6 検出数 (%) - 6(100.0) 6(100.0) -
中央値 (最小値-最大値) - 3.1(1.4-3.8) 3.1(1.9-4.4) 6.1(3.3-8.2)
平均±標準偏差 1,019±29 2.8±1.0 3.1±1.0 5.9±1.9
二本松市 3 検出数 (%) - 3(100.0) 2(66.7)
中央値 (最小値-最大値) - 0.2(0.2-1.3) ND(ND-1.1) 0.2(0.2-2.4)
平均±標準偏差 1,047±15 0.5±0.7 0.4±0.6 0.9±1.3
福島市 9 検出数 (%) - 8(88.9) 8(88.9) -
中央値 (最小値-最大値) - 3.4(ND-4.9) 3.9(ND-5.5) 7.3(0.2-10.1)
平均±標準偏差 1,021±18 2.6±2.0 2.3±4.4 5.6±4.4
宇治市 3 検出数 (%) - 1 (33.3) 1 (33.3) -
中央値 (最小値-最大値) - ND(ND-0.7) ND(ND-0.7) ND(ND-1.4)
平均±標準偏差 1,037±21 0.2±0.4 0.2±0.4 0.5±0.8
ND: 検出限界以下(0.2ベクレル/キログラム)


重量 放射能 (ベクレル/キログラム) 暫定基準値 a)
(グラム) セシウム134 セシウム137 合計 (ベクレル/キログラム)
野菜・果物 500
宇治市 ホウレンソウ 1249 検出せず 検出せず 検出せず
コマツナ 3044 検出せず 検出せず 検出せず
福島県 (43試料)
伊達市 コマツナ 1828 2.6 2.2 4.8
ホウレンソウ 1677 0.2 0.3 0.5
ツルナ 1097 29.9 32.7 62.6
ツルムラサキ 826 2.1 3.1 5.2
キュウリ 1643 3.4 4.5 7.9
ネギ 1770 3.3 2.8 6.1
川俣町 ミズナ 504 5.9 7.7 13.7
シイタケ 1012 140.4 164.2 304.6
ツルムラサキ 503 4.4 3.0 7.4
キュウリ 1007 1.3 1.6 2.8
ブロッコリー 831 6.4 6.6 12.9
ニラ 704 7.2 4.5 11.7
あんぽ柿 332 1.8 1.7 3.5
ネギ 1455 5.7 6.6 12.3
福島市 ニラ 436 1.9 2.0 3.9
キュウリ 493 2.9 3.9 6.8
いわき市 ホウレンソウ 1903 0.5 0.9 1.4
スナップエンドウ 860 3.5 3.6 7.1
シイタケ 89 検出せず 検出せず 検出せず
青ネギ 571 7.3 8.5 15.8
ニラ 615 2.8 3.5 6.3
ブロッコリー 1479 0.9 1.1 2.0
ツルムラサキ 1079 1.5 2.6 4.0
ニンニク 691 0.8 0.5 1.3
相馬市 ネギ 1543 4.1 2.6 6.7
モモ 794 9.3 7.9 17.2
サクランボ 244 29.3 37.3 66.6
ソラマメ 418 4.9 6.0 10.9
タマネギ(大) 835 0.5 0.6 1.1
タマネギ(小) 430 9.1 9.2 18.3
紫タマネギ(大) 589 3.3 5.0 8.3
紫タマネギ(小) 524 9.6 11.6 21.3
ニンニク 256 9.4 7.2 16.6
ジャガイモ 1258 1.0 0.8 1.8
南相馬市 にんじん 1271 1.4 2.1 3.5
しいたけ 417 127.1 154.7 281.8
ピーマン 502 検出せず 検出せず 検出せず
二本松市 アスパラ 637 1.3 1.5 2.8
ピーマン 390 12.0 10.7 22.7
ツルムラサキ 1533 1.7 3.2 4.9
キュウリ 2064 3.6 4.3 7.9
ネギ 1309 5.4 5.0 10.5
サクランボ 352 24.5 28.5 52.9

検出せず:検出限界以下(0.2ベクレル/キログラム)
a) 厚生労働省による暫定基準値 [8]


 今回、大容量大気捕集装置を用いて16件の大気粉じん試料を回収した(表3図1)。アンダーセン式大気捕集装置から得られたデータから、福島第一原子力発電所由来の放射性核種の大部分は吸入可能画分(空気力学的直径が4.9マイクロメートル未満)に存在することが示された:セシウム134では全体の74% (吸入可能画分4.8ミリベクレル/全体6.5ミリベクレル) 、セシウム137では81% (3.8/4.7) であった (表3)。人体の被ばく線量を推定するのに、保守的アプローチを採用したため、大容量大気捕集装置で回収された大気粉じん試料中、全てのセシウム134とセシウム137を呼吸性画分に割り当てた(空気動力学的直径<4.9マイクロメートル)。最も高い預託実効線量は浪江町で回収された試料の年間76.9マイクロシーベルトであった。しかし、この値は、公衆被ばく限度の年間1ミリシーベルトよりも低い値であった[8]。セシウム137の預託実効線量は空間線量率(毎時マイクロシーベルト)と強い相関を示した(n=10, r2=0.79, p<0.05)が、土壌中の平均放射能量(ベクレル/キログラム)とは相関を認めなかった(n=11, r2=0.32, p > 0.05)。

表3
福島県における大気中放射性セシウムの粒度分布と経気摂取量推定

調査地点 緯度・経度 調査日 アンダーセン式空気捕集装置使用調査, 224 m3 放射能
(2011年) 粒度 粉じん量 (ミリベクレル/m3)
(マイクロメートル) (ミリグラム) セシウム134 セシウム137
福島市 37°45'42" N 140°28'18" E 7/2-7/8 100-11.4 0.7 0.4 0.3
11.4-7.4 1.1 0.3 0.3
7.4-4.9 1 1.0 0.4
4.9-3.3 0.9 0.5 0.6
3.3-2.2 0.6 0.3 0.2
2.2-1.1 0.8 0.3 0.2
1.1-0.7 1.3 0.8 0.4
0.7-0.46 1.3 1.5 1.1
0.46> 0.9 1.5 1.3
合計 8.6 6.5 4.7
吸入可能分 4.9> 5.8 4.8 3.8


調査地点 緯度・経度 調査日 大容量空気捕集装置使用調査 空間線量率 土壌中放射能
(2011年) 大気採取量 粉じん量 大気中放射能 預託実効線量 a
(天候)b (ミリベクレル/m3) (マイクロシーベルト/年) (ベクレル/キログラム)
(m3) (ミリグラム) セシウム134 セシウム137 セシウム134 セシウム137 合計 (マイクロシーベルト/時) セシウム134 セシウム137 試料数
福島市 37°45'42" N 140°28'18" E 2011/7/2 (晴) 473 6.8 1.9 3.0 0.3 0.8 1.1 1.2 NA NA
伊達市 37°47'10" N 140°33'26" E 2011/7/3 (曇) 94 3.5 7.9 6.4 1.1 1.8 3.0 0.9 3,232±2,666 3,855±3,047 5
福島市 37°39'26" N 140°32'11" E 2011/7/3 (曇) 83 1.9 4.7 1.5 0.7 0.4 1.1 1.0 2,515±859 3,059±1,077 5
福島市 37°45'42" N 140°28'18" E 2011/7/4 (雨) 450 8 1.6 1.5 0.2 0.4 0.6 1.2 NA NA
相馬市 37°46'1" N 140°57'2" E 2011/7/5 (晴) 88 0.7 0.6 0.2 0.1 0.1 0.1 0.5 1,710±2,365 2,116±2,976 5
南相馬市 37°38'29" N 140°55'30" E 2011/7/5 (晴) 84 2.4 0.7 1.1 0.1 0.3 0.4 0.9 1,772±411 2,151±546 5
相馬市 37°46'8" N 140°43'1" E 2011/7/5 (晴) 84 1.3 1.1 2.3 0.2 0.7 0.8 1.6 1,723±1,792 2,047±2,174 5
福島市 37°45'42" N 140°28'18" E 2011/7/5 (晴) 220 4 2.9 3.4 0.4 1.0 1.4 1.2 NA NA
二本松市 37°33'21" N 140°27'34" E 2011/7/6 (晴) 93 0.1 0.6 0.6 0.1 0.2 0.3 1.2 12,184±12,170 14,202±14,025 5
二本松市 37°33'21" N 140°30'43" E 2011/7/6 (晴) 53 0.3 4.2 7.3 0.6 2.1 2.7 1.9 1,895±674 2,244±755 5
川俣町 37°36'14" N 140°38'49" E 2011/7/6 (曇) 72 0.4 6.3 6.1 0.9 1.7 2.7 2.0 3,931±4,856 4,741±5,929 5
福島市 37°45'42" N 140°28'18" E 2011/7/6 (曇) 246 4 5.3 7.6 0.8 2.2 2.9 1.2 NA NA
福島市 37°45'42" N 140°28'18" E 2011/7/7(曇) 259 5.3 1.9 2.5 0.3 0.7 1.0 1.2 NA NA
飯舘村 37°36'44" N 140°44'52" E 2011/7/7(曇) 84 1.7 24.6 38.9 3.6 11.1 14.7 9.0 18,531±11,235 23,185±15,664 5
浪江町 37°33'38" N 140°45'39" E 2011/7/7(曇) 84 1.7 148.2 194.2 21.6 55.3 76.9 13.0 13,548±10,469 16,216±12,653 5
葛尾村 37°31'33" N 140°48'21" E 2011/7/7(曇) 84 1.5 65.0 64.0 9.5 18.2 27.7 10.0 16,332±11,170 16,799±10,058 5

a)成人の1日標準呼吸量を20m3として、ダスト中全てのセシウムを吸入していると仮定している。 NA: 利用不可能


 この研究の試料は大規模な放射能の放出から約4カ月後の7月上旬に集められており、大気中の放射能は直接の放出物ではなく、沈着した放射能が再浮遊されたものである可能性が高い。平面からの再浮遊に関する研究報告はいくつか認められるが[5]、森や水田を含む生態系での再浮遊に関する検討は十分に行われていない。

 私たちは、2011年7月時点の福島県内のセシウム134 とセシウム137の放射能レベルを明らかにした。福島原発から20キロメートルの圏外における、経口および吸入による合計線量の最高値は年間160マイクロシーベルト(経口で83.1 、吸入で76.9マイクロシーベルト)と見積もられた。

 住民が日常摂取する食事からの放射能量は、規制値よりもはるかに低い値だった。一方で、現在では様々な食材が世界中から輸入されており、一部は汚染外地域からも流入されていることから、高濃度に汚染された食材の放射能を、他の"汚染されていない"食材で希釈することは可能である。しかし、毎日の食材の多くを汚染地域内の食材で賄っている汚染地域の住民については、本研究結果は経口摂取による被ばく量を過小評価していると考えられる。そのため、今回の結果は、そのようなライフスタイルの人々には適応できない。さらに、今回の研究で利用された大気中ダストモニタリングは、少数の限られた地域のものである。また、すべての食餌試料を30キロメートル圏外から収集した理由は、現在、原発から20〜30キロメートル圏内は緊急時避難準備区域または計画的避難区域に指定され、商店における販売が停止しているためである。大気粉じん試料が少数であることに加え、調査は再浮遊が比較的少ない梅雨のシーズンに行われた。今回の検討では、これらの限界やバイアス(偏り)が存在するが、保守的アプローチにより、線量の推定を最大限にして見積もったことにより、バイアスや限界は一部緩和されたと考える。結論として、福島県の住民の経口および吸入における推定被ばく線量は公衆被ばく限度の年間1ミリシーベルトよりもかなり低い値であった[8]。今後、より正確な被ばく推定値を基にした定量的なリスク評価が行われる必要がある。


謝辞

 本研究は厚生労働科学研究費補助金食品の安心・安全確保推進研究事業 (H21-食品-003)、京都大学防災研究所特別緊急共同研究費 (23U-01) および財団法人東京顕微鏡院の支援により行われた。

利益相反

 著者らは本研究に関して利益相反がないことを宣言する。

オープンアクセス
あなたはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのもとで、以下の条件に従う場合に限り、自由に

* 本作品を複製、頒布、展示、実演することができる。
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表示 ― あなたは原著作者のクレジットを表示しなければならない。
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引用文献

1. "Fukushima radioactive fallout nears Chernobyl levels". Newscientist.com. available on http://www.newscientist.com/article/dn20285-fukushima-radioactive-fallout-nears-chernobyl-levels.html. 閲覧日 24 April 2011.

2. Peter Grier. "Was Chernobyl really worse than Fukushima?". The Christian Science Monitor. April 26, 2011. Available on http://www.csmonitor.com/USA/2011/0426/Was-Chernobyl-really-worse-than-Fukushima

3. Chino, M, Nakayama H, Nagai H, Terada H, Katata G, Yamazawa H. Preliminary Estimation of Release Amounts of 131I and 137Cs Accidentally Discharged from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant into the Atmosphere. J Nuclear Sci Tech. 2011; 48: 1129-1134.

4. Tsuji M, Kanda H, Kakamu T, Kobayashi D, Miyake M, Hayakawa T, Mori Y, Okochi T, Hazama A, Fukushima T. An assessment of radiation doses at an educational institution 57.8 km away from the Fukushima Daiichi nuclear power plant 1 month after the nuclear accident. Environ Health Prev Med. 2011. DOI: 10.1007/s12199-011-0229-7

5. Ishikawa H. Evaluation of the effect of horizontal diffusion on the long-range atmospheric transport simulation in Chernobyl data. J Appl Meteorol. 1995; 34: 1653-1665.

6. Koizumi A, Harada KH, Inoue K, Hitomi T, Yang HR, Moon CS, Wang P, Hung NN, Watanabe T, Shimbo S, Ikeda M. Past, present, and future of environmental specimen banks. Environ Health Prev Med. 2009;14:307-18.

7. International Commission on Radiological Protection (ICRP). Age-dependent Doses to the Members of the Public from Intake of Radionuclides - Part 5 Compilation of Ingestion and Inhalation Coefficients. ICRP Publication 72. Ann. ICRP 26 (1), 1995.

8. 厚生労働省. 放射能汚染された食品の取り扱いについて. 2011年3月17日. available on http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r9852000001559v.pdf


訳者:藤井由希子、小林果、原田浩二(京都大学医学研究科環境衛生学分野)、仙石多美(京都大学医学研究科健康情報学分野)

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Department of Health and Environmental Sciences
Kyoto University Graduate School of Medicine