動物モデルからヒト糖尿病の予防への展開の可能性

ー新しい糖尿病モデルAkita-mouseを例にー


秋田大学医学部衛生学講座  小泉 昭夫
 

糖尿病予防の意義
 今日わが国の糖尿病の人口は500万人を超えるといわれている。特に高齢者においては有病率は非常に高い。糖尿病が増加した背景には、もちろんわが国の平均余命の延長とともに、食生活を含むライフスタイルの変化、運動量の減少などがあげられる。特に高齢者における糖尿病は、遺伝的素因、老化および環境因子が大きく関与しており、糖尿病の予防を考えるにあたり、遺伝的要因を明らかにしたうえでの環境因子への介入が必要となる。さらに、日本人における糖尿病の約4割は欠陥合併症により死亡しており、網膜症による失明は年間3000人をこえ、糖尿病性腎症による透析導入患者は年間8000人に達している。これらは、個人のQOLを損なう意味から大きな損失であるとともに、医療費に与える負担も大きな問題となっている。

モデル動物から予防
  ヒトにおける疾患の遺伝的要因、環境要因、治療効果は伝統的には疫学研究により明らかにされてきたが、大規模な調査を要し時間もかかり、さらに経済的問題がある。このような問題を解決するために、動物モデルは非常に有効な手段となる。特に遺伝的要因の解析には、マウス、ラットでは染色体レベルでsynteny がヒトとの間で成立しているため有用である。即ち、責任遺伝子座を明らかにすることにより、ヒトにおける遺伝子座の候補が明らかになる。 特に、遺伝的背景の濃厚な糖尿病であるMODYや、多因子遺伝であると考えられる多くのNIDDMについてはげっ歯類モデルはヒトの遺伝的素因の解明に役に立つ。但し、必ずしもマウスはヒトのミニチュアではなく質的な差が存在することは認識しておくべきであろう。例えば、インスリン遺伝子において相違が存在し、げっ歯類ではIns1,Ins2と2つ存在し、ヒトではIns2のみであり遺伝子発現、制御、発達分化において前者のモデルが必ずしも後者に当てはまらない場合がある。HNF-1a, 4aなどのKnockout mouseの例は有名である。

Akita-mouseの可能性
 我々の開発したAkita-mouseは、常染色体優勢遺伝形式で10週齢までに糖尿病を発症する。感受性には性差が有り、雄は雌より重篤な糖尿病を発症する。さらに、糖尿病性腎症としての糸球体病変、水腎症を発症する。連鎖解析により、責任遺伝子は、7番染色体72+3cMに存在する事が明らかになった。また、病態として膵ラ氏島Bー細胞の機能異常が存在することが明らかになった。ヒトにおけるSyntenyは11番染色体15あるいは13であり、この領域に相同の糖尿病の遺伝子座が存在するものと考えられる。現在その検索が進行している。さらに本モデルマウスは糖尿病の合併症として重要な腎症モデルとして有用と考えられ腎症への治療方法の確立ためにも有用である。

新たな展開
 現在われわれは、我々のAkita-mouseをC3Hマウスに戻し交配することにより、世代および家系間での耐糖能の違いが生じることを観察している。この差異に注目し耐糖能に影響を与える遺伝子群の同定を行いつつある。関与する遺伝子は複数存在することが考えられ、加齢によるヒト糖尿病のモデル遺伝子と考えられる。

まとめ
 実験動物モデルは、従来は疾患モデルとして注目されてきたが、近年の分子遺伝学の展開は、動物モデルがヒトの疾患の遺伝素因を解明する遺伝子モデルといわれる状況を作り出した。これにより、実験動物による検討は単にメカニズムのモデルのみならずヒトの疾患の治療、診断、予防などにも役立つものと期待される。